第3章 紺鼠(こんねず)
お互いの顔を見ながら笑いあっているところへ、幸村と道三様がお茶を運んで来てくれた。
「何か面白え話でもあんのか?」
「おや?何やら楽しそうにございますな。」
「ああ。もしも幸が小粋な男だったらって姫と話してたんだよ。くくっ。」
興味あり気に聞いてくる幸村に、信玄様は笑いを耐えながら答える。
「なんだそれ。
信玄様じゃあるまいし、小洒落た事なんて恥ずかしくてできっか。
んなありえねえ話のどこが面白えんだよ。」
幸村は眉間にシワを寄せると冷めた表情で信玄様に問いかける。
「ありえないから面白いんだろう?」
「絵に書いた餅じゃねーか。
見てるだけじゃ腹なんて膨れねえしな。
な?ろき、お前もそう思うだろ?」
「絵空事もたまにはいいものさ。なぁ姫?」
「はぁ…。」
お互い譲らず黙って聞いていた私に同意を求められるが、どちらの味方も出来ず曖昧な返事しか返せないでいると、隣で聞いていた道三様が助け船を出してくれた。
「ふふ。描かれた餅も本物の餅も、餅は餅。
見て楽しむか味わい楽しむかの違いにございましょう?
わたくしはどちらも必要だと思うておりますよ。
ささ、お茶が冷めないうちに頂きましょう。」
「ああ。そうだね道三。折角のお茶が冷めてしまうね。」