第3章 紺鼠(こんねず)
「足元ちゃんと見ろよ」
「わかって…………おっとっ」
「言ってるそばから躓くなって! 下見ろ下をっ!」
「う、うん」
幸村に小言を言われながら鮮やかに彩られた木々の隙間を抜け、奥へと続く飛び石を伝い歩く視界の先には、信玄様と道三様が縁側に腰掛けのんびりお茶を啜っていた。
「信玄様! 道三様〜~!」
大声で呼びかけると、信玄様はこちらに気付き嬉しそうに大きく手を振った。
幸村に手を引かれながらゆっくり2人の元へ近寄る。
「こんにちは。今日のお加減はいかがですか?」
「道三の薬が良く効いてね。とても気分がいいんだよ」
「良かった……」
「昨日から信玄様はたいそう大人しくしておられますよ。
ろき様がお子を宿された事がよほど嬉しかったのでしょう」
「しっかり養生して直さないとこの手に抱けないからね」
「そうだぞ信玄様。
大人しくしとかないと良くならねーし、子は抱けねーし、甘味も持って来ねえからな」
「それは困る! 頼むよ〜~幸。そ、それで……今日の甘味はなんだい?」
「さあ、なんだろな?」
幸村はもったいぶるように言うと、持っていた風呂敷包みを信玄様の目の前に差し出す。
待ってましたと言わんばかりに包に手を伸ばして受け取ると、膝の上に乗せ嬉しそうに風呂敷を開き、両手を蓋にそっと添えゆっくり持ち上げた。
「これは……姫が作ったのか?
今まで見た事がない甘味だ。
なぜ櫛形に切ってある柿の中身がこしあんなんだ?
どうすれば柿の中に入れられるんだ?」
「まっこと不思議でこざいますな……」
訳がわからないといった表情で覗き込む信玄様と道三様の様子に、くすっと笑えば隣にいる幸村も口に拳を当て喉を鳴らして肩を震わせていた。