第3章 紺鼠(こんねず)
「幸村様にろき様。いつ見ても仲睦まじく微笑ましい限りでございますね」
「オヤジ。今日はこれを持ってきた」
差し出された風呂敷包みを両手で受け取ると、私と幸村を交互に見ながら不思議そうに尋ねる。
「これは?」
「分けて貰ったこしあんでろきが作った甘味だ。昨日の礼だ」
「なんと……私に礼などと、もったいのうございます」
「そ、そんなたいそうなものではないんです。
それに私一人で作った訳ではなくて、幸村と一緒に作りました。
心良く分けて頂いたご主人にどうしてもお礼がしたかったんです。
どうぞお召し上がりください」
「ろき様と幸村様お二人で作られたのでございますか!?
そのような甘味を頂けるとは……これ程嬉しい事は他にございません。
誠にもったいのうございます。誠に……まことに」
「いいえ、ご主人のおかげです。本当にありがとうございます」
涙ぐみ何度も何度も頭を下げるご主人の背中をさすりながら、覗き込むように感謝の気持ちを伝えると、幸村も穏やかな眼差しをたたえ、後を追うように口を開く。
「また近いうち寄らせて貰うよ。オヤジありがとな」
深々と頭を下げるご主人に見送られながら、私達は道三様の庵へと向かった。