第3章 紺鼠(こんねず)
「ろき、これ何等分に切ればいいんだ?」
「6等分でいいよ」
いつもより早めに目覚めた私達は、前日作った柿羊羮を朝餉の前に用意しようと厨へ来た。
幸村が切り分けてくれたのをお重に形良く並べていく。
信玄様に持っていく分を詰め終わり、更にもうひとつの空いたお重に同じように詰めていると、幸村は濡れた手を腰に挟んだ手ぬぐいで拭きながら怪訝そうな表情で尋ねてきた。
「重箱ふたつも持ってくのか?」
「ひとつは信玄様で、もうひとつはこしあんのお礼に甘味屋のご主人に持っていくの」
「ああ。そういう事か」
全て詰め終え丁寧に風呂敷で包むと部屋へ戻る。
昨日とはうってかわり、バタバタする事なくゆっくり朝餉をとり身支度を整え城を出ると甘味屋までの道を手を繋いでのんびり歩いた。
視線の先に目印の赤い暖簾が目に入る。
まだ早い時間にもかかわらず店先に置かれた縁台は常連のお客さんで賑わっていて、店に向かい歩く私達に気づいたご主人がにこやかに微笑みかけてきた。