第1章 炎色(ほのおいろ)
「そろそろ鍛錬場に戻るよ。
謙信様を待たせると後が怖い。
それと……
今度、幸村と三人で【まきびし巡りツアー】に行かない?」
「まきびしツアー?」
「多種類の自生するまきびしを採取する。
一泊二日のツアー」
「ぷっ、佐助君らしいね。
ありがと……佐助君」
「うん。じゃ、あとで」
佐助君のエールに励まされ、
さっきまで安土を思う切なさと涙は、いつの間にかどこかに飛んで行った。
気持ちはからりと晴れ渡り
清々しい空気に包まれ一気に元気がみなぎるのがわかる。
「よし! もう大丈夫!
……それにしても、佐助君大丈夫かな。
私に手紙を持ってきたせいで、時間にうるさい謙信様に怒られなければいいけど」
その頃謙信は、待てど暮らせど来ない佐助にしびれをきらし、広い鍛錬場の片隅で、姫鶴一文字を横に置き、三つ指逆立ちで精神統一の真っ最中。
「大変遅くなり申し訳ありません」
入口で床に頭を擦り付けるように膝を折り、座礼する佐助の謝罪に、謙信の全身の毛という毛が総毛立つ。
「言い訳無用! きいぃえ#/%&@~"*-!%_/&#」
猿のような奇声は瞬時、城山中に響き渡る。
自室にて、書を読みふけていたろきは、微かに聞こえた謙信の叫び声にふと顔を上げると、鍛練場に視線をやり困惑した表情でぽつり呟いた。
「……あぁ、やっぱり」