第2章 照柿(てりがき)
部屋へ戻り、夕餉をとるべく広間へ行こうと廊下に出ると、侍女のちよさんがパタパタと駆けてきた。
「幸村様、ろき様。
今宵、謙信様は所用で遅くなられるとのことで、夕餉は先にお召し上がり頂くよう仰せつかっております。
すぐにお部屋へご用意してもよろしいでしょうか?」
昼間別れて以来、姿の見えない佐助君の事が気になり、座礼したまま返事を待っているちよさんに尋ねてみる事にした。
「佐助君……は?」
「佐助様も所用にて、数日はお戻りにならないと聞いておりますが」
「わかった。ちよ、夕餉を頼む。それから湯浴みの支度もしといてくれ」
「はい、かしこまりました」
「ろき、部屋へ戻るぞ」
謙信様と佐助君が不在という事に、妙な胸騒ぎがし黙り込む私の代わりに、幸村が素早く返答する。
部屋へ戻るとすぐに夕餉の膳が運ばれ、私達は向かい合うように座った。
腑に落ちない気持ちを抱えたまま、黙々と箸を動かし続ける私に、それまで黙っていた幸村が口を開く。
「やけに大人しいじゃねーか」
「だって……」
「ん?」
「謙信様と佐助君がいないってことは、何かあったんじゃないかって……。
よく考えたら、道三様の庵を出るとき佐助君言ってたでしょ?
『謙信様に言付かった所用がある』って。
それもちよさんの話じゃ数日らしいし……」
「何かあれば連絡が来る。お前の杞憂にすぎねえよ」
「きゆう?」
「心配してもしょうがねーって事」
幸村はそう言うと残ったご飯にお茶を注ぎ、一気に掻き込んだ。