第2章 照柿(てりがき)
「あーーーーーっっっ!」
驚いた私の体は一瞬ビクッと震え固まる。
「え? え? なに!?」
キョロキョロ見回す挙動不審な私に幸村はニヤリ微笑む。
「言ってみただけだ」
「……え?」
「仕返し」
「ええ~~!?」
「くくっ……驚きすぎだろ」
「もう! 何か起こったのかと……心臓止まるんじゃないかって思った」
「笑いすぎなんだよ。ばーか。
んな簡単に心臓止まってたまるかよ。
ほら、さっさと干さねーと日が暮れちまうぞ」
幸村に促され戸口から庭を見渡せば、暖かな橙色の夕陽が辺り一面を照らしていた。
軒に下げられた竿に、幸村は次々と紐で括った柿を掛けていき、私はその傍らにしゃがみ込むと、ダイスの形をした実をザルに並べていく。
「なあ、お前が並べてるそれ……何が出来るんだ?」
幸村は作業する手を止め私の背後からザルを覗き込んだ。
「これはね、ドライフルーツにするの」
「何だそれ?」
「干した果物をドライフルーツって言うんだけど、柿以外でもできるんだよ。
ぶどうとか杏とか」
「へえ。美味そうだな」
「うん。謙信様はお酒を飲む時、いつも梅干しばかりでしょ?
塩分とりすぎてるから……たまには違うもので代用できないかなと思って。
これなら梅干しみたいに摘まんで食べれるしね」
「なるほどなあ……てかよ、甘味作るのって案外楽しいもんだな」
「ふふ。幸村の手際の良さにびっくりしたもん。
私より上手だし早いし」
「そうか〜?」
「口は不器用だけど手先は器用なんだな〜って」
「それ……褒めてんのか?」
「ぷっ」
何気ない会話を交わしながら、幸村のお陰で時間がかかる事なく全て干し終わり、ふと空を見上げれば茜色の空をカラスの群れが鳴き声を響かせながら通り過ぎて行った。