第2章 照柿(てりがき)
幸村の余りの手際よさに口に手を当てて驚いていると、思い出したように訪ねてきた。
「そう言えば、ダイスの形に切った実はどうすんだ?」
「ふぇ?」
「なんて声出してんだよ……くくっ。
お前に言われてダイスの形に切った柿、どうすんだって聞いてんだけど……ぷ」
「あ……」
その存在をすっかり忘れてた私は、幸村の言葉で思い出す。
慌てて側にあった桶を覗くと、幸村の手によって綺麗に整えられた実が入っていた。
手を伸ばし両手で抱えると、三和土(たたき)に置かれた草履をつっかけ、戸口に立つ幸村の元へ駆け寄った。
「ろき、走るな」
たしなめるように言うと、私が持つ桶に手を伸ばし奪い取った。
今まで何度も目にした光景だが、いたわるが故の行動だと思うと嬉しくて、桶を抱える腕に自分の腕を差し込みぴったりと体をくっつけた。
私の思わぬ行動に一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにそっぽを向き片足で器用に引き戸を開けた。
平然としていても、耳まで真っ赤にしている幸村を見ると思わず笑いが込み上がる。
「ふふ……そんなに照れなくたって」
「うるせ」
「それに両手塞がってるんだから、戸ぐらい私が開けるのに」
「うるせー」
「また転ぶかもよ?」
今朝、頭から畳に突っ込み転んだ場面が鮮明に蘇り、口を押さえてくすくす笑っていると、耳をつんざくような幸村の大きな叫び声が突然聞こえた。