第2章 照柿(てりがき)
「きっと喜んでくれるよ」
「だな」
寒天を流し込み台に並んだ実を見ていると、信玄様の笑顔が思い浮かび自然と笑みがこぼれる。
隣にいる幸村に視線を移すと、キラキラした目で口元を綻ばせながら見つめる姿に作って良かったと心底思った。
「よしっ。続きやるか」
「うん!」
幸村がポンッと膝を叩いたのを合図に、再び私達は作業に取り掛かる。
「幸村。さっきくり抜いて余った実をすり鉢ですりつぶしてくれる?」
「おー」
「三個だけ別にダイスの形に小さく切ってくれる?」
「おー」
「それが終わったら残りの柿の皮を全部むいて熱湯に潜らせるの。
今からお湯沸かすね。
あーそだ、ヘタすれすれのとこに竹串も刺しといてくれる?」
「おー」
幸村がすりつぶしてくれた果汁と甘葛(あまずら)で寒天液を作り、お重に流し込む。
自分の仕事が一段落つき、他を手伝おうと振り返ると、竹ザルを抱えた幸村が庭へ続く引き戸に手をかけたところだった。
「幸村?」
「軒下に吊るしてくる」
「え? もう紐つけたの?」
「んなもんとっくにつけたぞ?」
「竹串は?」
「刺さねーと紐つけらんねーだろ」
「熱湯潜らせた?」
「潜らしたぞ?」
「ええええええええ!」