第2章 照柿(てりがき)
「っっおいしい!」
「だろ? 何個でも食え」
横抱きにした私を妙に艶っぽい目をして覗き込むと、不意に手を伸ばしてきた。
「ほら、口ついてんぞ」
目尻を下げそう言うと唇から滴る果汁を右手の親指でやさしく拭った。
照れ屋な幸村の意外なしぐさに心をくすぐられ、火照りそうになる頬を隠すように視線をそらすと、動揺する自分をさとられないよう話題を変える。
「ゆ、幸村はいつもこんな風に食べてるの?」
「あー、佐助と偵察行って腹減ったときはなんでも食うぞ?」
「何でも?」
「おー。カエルとかヘビとかな」
「えええええええええ!」
「冗談だっつーの。バーカ」
「もう! びっくりさせないでよ!」
「ぶはっ。ほんとお前単純すぎんだよ……っぷ」
「もおおお!」
顔を背けて笑いを耐える幸村を傍目に、それまで感じていたトキメキはなりを潜め、冗談に引っかかった悔しさに膨れた私は、持ってた柿を一気に頬張った。
ーー次は絶っ対に引っかからない!
カエルとかヘビとか……ありえないしっ!
黙々と食べ続ける私に伺うような目で聞いてくる。
「悪かったって。機嫌直せよ」
「…………」
「んな怒んなって。ほらこっち向け」
黙り込む私の顎を片手ですくい自分に向けさせた。
視線の先にある呆けるほどの端正で穏やかな顔立ちに心臓がトクリと鳴り、瞬時に目を奪われる。
実にかぶりついていたのも忘れて動きを止めた私を、幸村は怪訝そうに聞いてくる。