第2章 照柿(てりがき)
「ぶはっっ。腹減ってぼーっとしてたのかっ……くっ」
「ち、ちがう! ほんとに考え事をっっ」
「ッッわかったわかった……ぷっ。ほら、こっちこい」
下げていた風呂敷包を足元に置き結び目をほどくと、形のいい実をひとつ選んだ幸村はその場にドカッと腰を下ろし懐から取出した手拭いで磨くように丁寧に拭いた。
向かいに立つ私を見上げたかと思えば、あっという間に手を引き寄せられ、胡座の上に横抱きにされた。
「きゃっ!」
「腹が減ってたら考えれるもんも考えられねーだろ? くくっ。
それにお前一人の体じゃねーんだ。
食えるときに食っとけ」
声を上げる私に幸村はそう言うと、目の前にその実を差し出した。
「絶対お腹すいてぼーっとしてたと思ってるでしょ……」
「ぷっ……いいから食えって」
「え? このまま?」
「なんか問題あんのか?」
「皮のまま食べたことない。食べれるの?」
「バーカ。食えるに決まってんだろ」
出された実を両手で受け取ると、恐る恐る皮ごとかじる。
ーーかぷっ
柔らかい皮と果肉を口に含むと甘さとみずみずしさが口中に広がる。
ゆっくり噛み締め飲み込むと、あまりの美味しさにゴクリと喉が鳴った。
さきほどまで感じなかった空腹感が一気に湧きあがり、熟れた実に視線を落とすとさらにかぶりつく。