第2章 照柿(てりがき)
「こら」
ふいに声をかけられ視線を向けると、地面に片膝をついた幸村が何か言いたげな表情で見つめてくる。
「え? なに?」
訳がわからず聞き返す私に体を向け直し、小さなため息をつくと呆れたような口調で語りかけた。
「お前はそこでじっとしてろ」
「え?」
「えじゃねーよ。
何度言えばわかるんだ。
何かあったらどーすんだよ」
「拾うぐらいどうってことないよ……そんなんじゃ何もできないじゃない」
「っとお前は……人の話聞いてんのかよ」
「言ってる事はわかるよ?
無茶もしないよ。
でも、じっとしてると落ち着かないしこれぐらい平気。
心配しすぎだよ幸村」
「落ち着かなくても、とにかく今そっから動くな!」
頭ごなしに動くなと言われ手も出せず、手持無沙汰な私は落ち葉で埋もれた地面を片足でつつきながら、落ちてる実を拾う幸村を眺めていた。
風呂敷にどんどん置かれ積まれていく柿の実の山に視線を移すと、徐々に目が見開かれていく。
ーーどう見ても30こ以上あるよね。
10こは柿羊かんで使うとしても、残りをどうするか頭を捻らせる。
幸村が採ってくれたものを、一個足りとも無駄にしたくなかった私は、頭の中のタンスの引き出しを片っ端から開け始めた。
考えれば考えるほど思考だけがぐるぐる回り、まとまらない。
「……い………おいっ! ろき!」
いきなり聞こえた声にハッと我にかえり辺りを見回すと、はち切れんばかりの風呂敷包を片手に持った幸村が、不安げな顔をして私の方に駆け寄ってきた。
「ぼーっとしてどした? 大丈夫か?」
「あ、うん……ちょっと考え事」
「考え事?」
「うん」
「具合悪いんじゃねーのか? 大丈夫か?」
「もう! 本当に何でもな……ッッ!?」
必要以上に心配してくる幸村に業を煮やした私は、反論しようと身を乗り出すが、それをかき消すように、くう~っと大きな音がお腹から聞こえた。
ぽかんとした顔で、一瞬私に視線を向けた幸村は、はじかれたように笑いだす。