第2章 照柿(てりがき)
繋いだ手を離し根元まで近寄った幸村は、持っていた桶を落ち葉の上に置くとその大きな木を見上げる。
「よいしょっと……」
圧のかかった声を発したのと同時に勢いよく飛びあがり、太い幹にぶら下がる。
そのまま腕の力だけで軽々と体を持ち上げ、あっという間に幹にまたがった。
こんなにも大きな柿の木に、いとも簡単に登って見せた姿に驚いた私は、思わず木の根元まで駆け寄ると、頭上の幸村に聞こえるように大きな声で叫んだ。
「すごい! 木登り上手!」
「バーカ。野生児なめんな」
朝飯前だと言わんばかりの口調で答えながら、しなる枝に手を伸ばし引き寄せると、器用に手をひねり実をもぎ取っていく。
野生児……幸村のその言葉が妙にツボに入り、つい吹き出してしまう。
「ぷっ」
「ほら、笑ってねーで危ないから下がってろ」
「うん!」
私が木から少し遠ざかったのを確認すると、手から離れた柿の実が厚く重なった落ち葉の上に次々と落ちてくる。
「どれぐらいいるんだ?」
「んー、10こぐらいかな」
「ほんとかー?」
落ちないよう木に手を回し、私を見下ろすと疑うような目で聞いてきた。
「え? どして?」
「食い意地の張ったお前のことだから、10こじゃ足りねえと思ってよ」
「一人でそんなに食べれるわけないでしょ!」
食べ物の事でいつもからかわれる為、ここぞとばかりに言い返すがそんな気持ちはお構い無しのようで、不貞腐れる私を見下ろしながら、幸村はふっと目元を緩めるとやさしく微笑み地面めがけて飛び降りた。
「これだけあれば十分だろ」
その言葉に辺りを見回せば、数えきれない程の柿の実が転がっていた。
気を取り直し、風呂敷を取り出すと地面に広げる。
ひとつひとつ実を拾い片手に抱える幸村の姿に自分も拾おうと足元の実に手を伸ばした。