第2章 照柿(てりがき)
私は胸元から懐紙を取り出し葉を丁寧に包む。
そんな私を見た幸村は待っていたと言わんばかりにいまだに真っ赤な顔で口を開く。
「こっちこい」
照れ隠しのように短く呟くと、私の手首をキュッと掴み木々の間を縫うように歩き出した。
サクッサクッ……
重なる落ち葉を踏みしめる音が心地いい。
足元に視線を落とせば鮮やかなもみじの葉に魅了され、俯き加減で歩を進めていると急に立ち止まった幸村の背中に鼻をぶつけた。
「痛った〜〜!」
痛みに顔をしかめ思わず両手で鼻を覆う。
唸る声と背中の衝撃に驚いたのか、幸村は勢いよく振り向き鼻を押さえて悶える私に慌てて声をかけた。
「ろきどうした!?」
「っ幸村急に止まるから……顔ぶつけた」
「急に止まるってお前、どこ見て歩いてんだよ!」
「だって……」
「っとに……大丈夫か?」
幸村は覗き込むように屈んで聞いてきた。
少しずつ痛みが引いて行くのを感じ、両手で鼻を押さえたまま涙目で答える。
「大丈夫……」
「……お前なぁ」
「ごめん」
「俺の後ろ歩くな。
手ぇ繋いでてもお前が見えねえし、こんだけ危なっかしいと気が気じゃねえわ」
「わ、わかった」
小言を言われながらも、なぜ急に立ち止まったのか気になってふと辺りを見回すと腰を屈めた幸村の背後に大きな柿の木があるのに気づく。
「あ、幸村! あの木?」
「おう」
高々とそびえ立つ柿の木には、真っ赤に熟れた美味しそうな実が枝をしならせたわわに実っていた。