第2章 照柿(てりがき)
「幸村、ありがとう」
「なんだよ急に」
「何でもない」
「変なやつ」
はぐらかされた幸村はフッと鼻を鳴らし笑うと、繋いだ手にぎゅっと力を込めてきたと思えば、肩越しに優しい声が降ってきた。
「絶対離さねえから。お前は俺が守る」
その言葉がぬくもりが胸の奥まで届き、溢れた嬉しさが涙となって頬を伝っていく。
「泣くんじゃねえよ……」
「だって……幸…村が優しいから」
「だからっ! 俺はいつも優しいだろうがっ!」
「うん……」
歩幅を合わせて歩いてくれる幸村の腕にそっと頬を寄せ何気に見上げれば、やっぱり幸村の耳は真っ赤に染まっていた。
「幸村、大好き…だよ……ひくっ」
「っ! おまっ! 恥ず※♭♡@&*☆★※#!!!
泣き止め! とにかく泣き止め!
俺が泣かしたみてえじゃねえか!」
「うっ、だってゆき…み…らが……」
「ゆきみらって誰だよ!」
謎の【ゆきみら】にお互い吹き出す。
「「…………ぶはっ!」」
なんだかんだありながら城下の中ほどまでいくと、見慣れた甘味屋の赤い暖簾が目につき、ほのかに甘い匂いが辺りに漂う。
「オヤジ~、ちょっと頼みがある」
遠くまで響く力強い声を発しながら暖簾をくぐる幸村に手を引かれ店に入ると、人のよさそうなやさしい笑顔をしたご主人が店の奥からひょっこり顔を出した。
「これはこれは……幸村様とろき様。
いつもお世話になっております。
して、頼みとは?」
「こしあんを少し分けて貰いてえんだが」
「そのように容易きこと。
幸村様とろき様のお役に立てるならば、いくらでも」
ご主人は幸村の申し出に、当然だと言わんばかりの表情で店の奥に行くと、両手で抱える程の桶を持って戻ってきた。
「ささ、どうぞこちらをお持ち下さいませ」
差し出された桶の蓋を開け中を覗くと、上質なチョコレートのように艶のあるこしあんがたっぷりと入っていた。
幸村は桶を受け取ると、懐に片手を入れ財布を取り出そうとした。
それを察したご主人が慌てて口を開く。
「幸村様、わたくしが気持ちでしたことにございます。
どうかそのまま……」
にこり微笑むと私達に深々と頭を下げた。