第2章 照柿(てりがき)
ゆっくりお互い体を離すと、狂おしい程熱を帯びた眼差しがまっすぐ私に向けられる。
視線が交わり、唇がどちらからともなく重なった。
触れ合えた喜びを噛みしめ、そっと目を開くとやさしく微笑かけてくる。
「……ろき」
「うん?」
「……呼んだだけ」
「ぷっ、なにそれ」
思わず吹き出すと、つられるように幸村も肩を揺らして笑う。
再び手を繋ぎ、私達はゆっくり歩きだした。
幸村の手の温もりに幸せを感じながら、空を見上げると沢山のいわし雲が並んでいた。
雲に重なるように信玄様の笑顔が浮かぶ。
1日でも早く良くなって欲しい。
その為に今私が出来ることは何だろうと考える。
自分が出来る事……
ーーそうだ、毎日甘味作って持っていこう。
甘味を頬張る時に見せる信玄様の無邪気な表情が何より好きだった。
療養の合間に少しでも好きなものを堪能できたら、病のせいで疲れた心もきっと元気になる。
そう思った私は隣を歩く幸村に問いかけた。
「ねえ幸村? 明日も甘味を持って行こうと思うんだけど何がいいかな?」
投げかけられた質問に足を止め、私に視線を向けると一瞬考えるそぶりを見せる。
「ん〜。また柿でいいんじゃね? 喉と肺にいいって道三も言ってたしな」
「柿かぁ。でも二日同じものっていうのも気が引けるよ……
あ、そう言えば信玄様ってあんこ好きだよね」
「ああ。大好物だな」
柿もあんこも使いたいと思うのに、その2つが結びつかない。
頭を傾げ思い悩んでいると、茶化すような幸村の声が聞こえた。