第2章 照柿(てりがき)
「幸? 大丈夫かい? 男は子は産めないだろう?」
「信玄様。幸村は混乱して正気を失ってるようですね」
「ゆ、幸村!?」
「佐助、謙信から貰った梅を幸に食べさせてごらん」
信玄様の言葉に佐助君は急いで隣の部屋に梅を取りに行くと、器からひとつ摘まみ取り出し幸村の口に放り込んだ。
「ぶふぉわっっ!」
梅の酸味に体を一瞬強張らせ肩をすぼめると、畳に向かい勢いよく実を吹き出した。
「なんだよこれッッ! すっぱすぎんだろーがッッ!」
「幸村、謙信様の梅は気付薬に最適だ」
「正気に戻ったか、幸。
思わぬところで謙信の梅が役に立ってよかったよ。
それより……現状は把握できてるのかい?」
「把握するもなにも、いまいち実感が沸かねえ。
だけど、絶対にろきと腹の子は俺が幸せにする」
「不器用な幸にしては素直な言葉だね」
「差し当たり実感なくとも、ろき様と一緒におられるのですから、自然と受け入れることとあいなりましょう」
「そうだね道三。
それにこんなにめでたいことはない。
皐月の頃を思うと胸がはやるな。
あーそうだ幸、謙信にはまだ秘密にしといてくれよ? 俺から話す。
あいつの驚いた顔を見るのが楽しみでたまらないよ」
「ああ……」
上の空で返事をする幸村の姿に、道三様はくすくす笑いながら信玄様に語りかける。
「ふふっ。幸村様は心ここにあらずのようですな」
「幸にも困ったものだね。今からこうでは先が思いやられるよ」
道三様の言葉に、信玄様は腕を組みながら呆れたように呟くと大きなため息をひとつ吐いた。