第2章 照柿(てりがき)
「か、か、かかっっ、懐妊ッ!?」
思いがけない言葉に素っ頓狂な声を上げ面食らった顔で驚き固まる幸村と、頭が真っ白になりぼーっとする私を見ながら、道三様は嬉しそうな口調で言った。
「ふふ。お子ができたのですよ。
なんと喜ばしい事にござりましょう」
道三様が発した「お子」という言葉でやっと思考が動き出す。
ーーお子って子供……子供? え? 赤ちゃん出来たって事?
隣に座る幸村を見てもいまだに固まって動かず、声をかけようと身を乗り出した途端、バタバタと大きな足音がしたかと思えば、勢いよく襖が開き信玄様と佐助君が部屋になだれこんできた。
「今しがたっ、懐妊と聞こえたのだが!
道三、ひ、姫が懐妊したのか!?」
「はい。ろき様はまごうことなく、お子を宿しておられます」
「そ、それで……道三! いつ頃? いつ頃生まれるんだい!?」
珍しく慌てふためき詰め寄る信玄様の問いに、道三様は指先をこめかみに当てると少し考える素振りを見せた。
「おそらく……皐月か水無月の始めでございましょう」
そう答えると、私と幸村にやさしい眼差しを向けにこやかに微笑みかけた。
「子……子か。
そうか……俺の腹の中に子がいるのか……」
道三様の言葉を受け、ようやく口を開いた幸村の呟きに、皆が目を丸くする。