第2章 照柿(てりがき)
中を見た瞬間……がくり、肩を落とし信玄様は大きなため息をつく。
「はあ~……あいつは本当にわかってない」
「どうしたんです?」
「見てごらん……」
「『(!!!)』」
出された器をのぞくと、ギッシリ詰まった梅干し。
「昨日も今日も甘味を食べてないんだ。道三が持ってくるのは苦い煎じ薬と薬膳だし、このまま甘味処に駆け込みたいよ」
思いのたけを晴らすように信玄様は恨めしく呟いた。
「そんなことだろうと思って、ちゃんと持ってきましたから。
時間がなくて簡単なものしか作れず申し訳ないですが、召しあがってみてください。
道三様に器をお借りしてきます。
ちょっとお待ちくださいね」
急いで立ち上がり板張りの廊下を進むと、土間の横で囲炉裏に向かい薬草をすり潰す道三様がいた。
「甘味という程のものではないのですが作って参りました。道三様もご一緒にいかがですか?」
「おお、ろき様の手作りとあらば是非とも。
どのようなものか楽しみにございますなあ。
薬も今出来たところでございます。
さっそく茶を入れましょう」
「ふふ。ありがとうございます。器と匙をお借りしても?」
「もちろんにございますとも」
人数分の器と匙を借り、道三様が淹れてくれたお茶をお盆にのせると、信玄様の待つ部屋へと運ぶ。
「おまたせしました。信玄様」
「待ちくたびれたよ姫~~」
子供のようにせっつく信玄様の姿が可笑しくて、ぷっと吹き出すと、私の横で器に盛った焼き柿とお茶を配る道三様も又、口に手を当て肩を震わせていた。