第2章 照柿(てりがき)
「信玄様のとこに行くから起きて。佐助君との待ち合わせまであと四半刻もない!」
「やべっっ」
勢いよく起き上がり一気に覚醒すると、バタバタと身支度を整えながら焦った声で聞いてくる。
「ろきッ、足袋! 足袋がねえ!!!」
「あ、足袋ならここあるよ」
急いで手渡すと、片足で立ち、慌てて左足を足袋に突っ込もうとした幸村は、一気にバランスを崩し、畳めがけて勢いよく転んだ…。
「っ痛〜って〜〜ッ!」
「ぶはっっ」
倒れた姿があまりにもおかしくて思わず吹き出すと、不貞腐れたようにドカッと座り、じれったそうな手つきで足袋を履きだす。
「ああああああああ! もおおお!」
「……っっぷ」
「なんなんだよこの足袋!」
「……っっ足袋のせいじゃないよ……っくぷっっ」
「っとなんなんだよっったくっっ!」
「ぶはっっ」
「くそお~~っっ! ろきお前笑いすぎだっつーのッ! 帰ったら覚えとけよッ!」
「……っっく」
「ぜってー仕返ししてやるからなッ!」
「う、うんっっ……急がないとさ……っっぷ」
笑いをこらえながら、身支度を終えた幸村を急かし、城門で待つ佐助君の元へ二人急ぐ。
「お待たせっ」
「いや、僕も今来たところだから。幸村、ゆっくり寝れた?」
「……まぁな」
「ぷぷっ」
「じゃ、行こう」
佐助君の言葉を合図に私達は歩き出す。
横からスッと腕が伸びてきたと同時に、抱えていた風呂敷包が視界から消えた。
「俺が持つ」
幸村はボソリ呟き、奪った風呂敷包みを片手に持つと空いた左手を私に差し出した。
「手だせ」
「え?」
「手だせって」
「手?」
「また具合悪くなって倒れたらどうすんだ」
「ありがと。なんか今日、優しい………」
「はあ? 俺はいつも優しいだろーが。さっさと握れ」
「うん」
差し出された大きな手をしっかり掴み、幸村の背中を見上げると後ろからでもわかるほど耳まで真っ赤に染まっていた。
「仲良きことは美しきかな」
私達をチラリ横目で見てすぐに視線を元に戻すと、佐助君はポツリ呟いた。