第7章 天色(あまいろ)と亜麻色(あまいろ)
そんな事を考えていると、『ぱんっ』と何かが弾けたような音がした。
驚いて視線を上げると、正面に立つ信玄様が両手を打ったようだった。
どうしたのだろうと、私は思わず口にした。
「ん?」
すると待っていましたと言わんばかりに、信玄様は合わせた両手を懐手にし、ニコリ微笑む。
「さ、次行こうか。のんびりしていたら日が暮れてしまうよ」
信玄様の言葉を受け、察したご主人が咄嗟に頭を下げる。
「これはこれは、長々とお引き留めし申し訳ございません」
「いや案ずるな。今日は幾分所用が立て込んでいてね。それに良いものも見せて貰った。お前が努め励んでいる証だよ」
「有り難いお言葉、感無量にございます」
「政七、お前は大袈裟なんだよ」
深々とお辞儀をするご主人を背に、信玄様はククッと喉をならし笑うとそのまま暖簾をくぐり外へ出ていってしまった。
「あ、信玄様!」
焦る私とは裏腹に隣に立つ道三様はやれやれと言った面持ちで、ご主人に軽く会釈をする。
「しからばこれにて。ろき様、参りましょう」
促された私は見送るご主人に一言挨拶をすると道三様と共に店を後にした。