第7章 天色(あまいろ)と亜麻色(あまいろ)
目の前に置かれた桐箱は、梅の花を象(かたど)った深紅の可愛らしい飾り結びでしっかりと括られており、手際よくほどくご主人の端正で優美な所作についつい見とれてしまう。
「姫君、こちらを」
ご主人の言葉に誘われ手元を見れば、箱の底には亜麻色(あまいろ)に輝く糸が隙間なく敷き詰められていた。
「これは……?」
あまりの美しさに驚きの声を上げた私に信玄様がさりげなく答える。
「青苧(あおそ)と言ってね。越後上布はこの糸で織られる。
謙信は十数年前から青苧の栽培に力を入れているんだが、今年は近年稀にみる出来らしい。これが極上品の正体さ」
息を呑むような素晴らしい糸に釘付けになった。
「こんなに綺麗な糸を見るのは初めてです」
「謙信から姫への贈り物だ。それからこれも」
「え!?」
手渡されたのは謙信様からの文だった。
巻き紙に毛筆でしたためられた文をひろげれば、謙信様らしい繊細で流れるような文字がそこにあった。
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元気にしているか?
お前から貰った手拭いは使い心地が良い。
この品は礼だ。遠慮なく受けとっておけ。
越後で生まれた青苧をろきに託す。次はお前と幸村でこの糸を育むのだ。
見かけによらず器用な二人だ。お前達らしい色に染めてゆけ。
幸村はもうしばらく俺が預かる。
謙信
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謙信様の優しさが胸に痛いほど染みてどんな言葉も見つからず、ただただ文をぎゅっと胸に抱きしめた。