第7章 天色(あまいろ)と亜麻色(あまいろ)
上がり框(かまち)に腰を掛け話し込んでいた信玄様だったけれど私たちのやり取りが気になったのか、ご老人との会話を中断し興味ありげな顔で聞いてくる。
「道三、何がそんなに可笑しいんだい?」
「あいや、ろき様がまっこと愛らしゅう事を申されましてな。微笑ましさに思わず笑みが漏れてしまいました。ふふ」
「ん~? どういう意味合だ?」
「ろき様は極上品がいかようなものか知りたがっておいでにございます」
「あぁ、そうか。俺としたことが伝え忘れていたよ。姫、こちらへ来てごらん」
道三様の気になる含み笑いを横目に、手招きする信玄様へ歩み寄ると先程のご老人が申し訳なさそうに口を開いた。
「すっかり話に夢中で、姫君様へのご挨拶が遅れてしまいました。
お初にお目にかかります。
手前はこの店の主(あるじ)で政七(まさひち)と申します。どうぞよしなに」
深々と折り目正しくお辞儀するご主人の上品な物腰に思わずたじろぎ、慌てて私もお辞儀を返す。
「は、初めましてろきと申します。今日は謙信様のお遣いで参りました。こちらこそよろしくお願いします」
挨拶を済ますとちょうど奥から使用人らしき男性が立派な桐の箱を抱えて持ってきた。