第1章 炎色(ほのおいろ)
「おいッッ! どうしたろきッッッ!」
「ろきさん!?」
慌てて後を追う幸村と、驚き目を見開く佐助を気にもせず、二つ目の梅干しをパクッと口に頬張った謙信は、切れ長の目を更に細くしほくそ笑みながら呟いた。
「ふっ……男子なら俺が鍛えてやろう」
廊下から庭へと身を乗り出し落ちないよう柱に手をかけえずく私の背中を幸村は必死にさすってくれる。
ーー気持ち悪い……
「ろき! 大丈夫かッ?
おいっどうしたんだよッッッ!」
「ケホッ……大丈夫。
少し風にあたればよくなると思うから」
「んな訳ねーだろ!
水持ってきてやっからちょっと待ってろ!」
蹴る勢いで厨へと走る幸村の足音が遠ざかって行く。
おさまらない吐気に胸のあたりをさすっていると、先程柿を包んでいた風呂敷が懐から少し出ているのに気づいた。
「……あ、そうだ。柿」
夕餉の後で皆と一緒に食べようと、厨の棚に置いた事を思い出し体を柱に預けると両足に一気に力を入れ立ち上がる。
磨かれた床から視線を廊下の奥へ向けると、湯のみを持った幸村が険しい表情でこちらに近づいて来た。
「どこ行くんだ? 」
立ち上がった私を気遣い、心配そうに聞いてくる。
「ううん……幸村がくれた柿が余りに美味しそうだったから、謙信様と佐助君にも食べて貰おうと厨に行……」
「はあ!? バカかお前はッッッ!」
私の言葉も言い終わらぬうち、城中に響き渡るほどの怒声が飛んできた。
思わず耳を塞いで顔を上げると、眉を吊り上げ目を見開く幸村に私は体が固まった。
……本気で怒ってる。
案の定、怒りの言葉が降ってきた。
「真っ青な顔して足元もおぼつかねーのに、柿なんて剥いてる場合かよ!
んなもんいつでも食えるだろーがっ!
いい加減にしろっッ!
部屋行くぞ!」
持っていた湯呑みを荒々しく床に置くと、横に立つ私の腰と膝に両手を回しぐいっと抱き上げた。
「ちゃんと掴まってろ」
「うん……」
急に抱えられバランスを崩した私は、慌てて幸村の首に手を回した。