第7章 天色(あまいろ)と亜麻色(あまいろ)
観念したのか……両手を懐にすぼめ肩を落とすと、渋々その重い口を開いた。
「ーー甘味が食べたいんだ」
叱られた子供のようにバツの悪そうな顔で答える信玄様の姿に私は思わず吹き出した。
「ぷっ!」
【甲斐の虎】と恐れられている屈強な武将の余りに可愛らしい一面に、些細な事などどうでもよくなってしまった。
「じゃあ、道三様もお誘いして三人で城下へ行きましょう!
それなら外出の許可も下りるのではないですか?」
私が言い終わらぬうち、それまでションボリしていた信玄様はたちまち元気を取り戻すと、抑えようもない喜悦の色が満面に浮かび上がる。
「今すぐ! 姫を抱きしめてもいいかい!?」
「違います! 今抱きしめてお願いしなきゃいけないのは道三様に!ですっ!」
「ああ! そうだ! 早速頼みに行ってくるよ!
すぐに戻るからね! 待っていてくれ」
そう言うや否や足音も慌ただしくまっしぐらに駆けて行く。
(ぷっ……あんなに喜ばれるとついつい甘やかしちゃう。こんなとこ幸村に見られたら私まで一緒に怒られそう)
遠ざかる信玄様の背中を眺めながら和やかな気持ちと同時に、自然と口元が綻んだ。