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イケメン戦国 〜いにしへよりの物語〜

第7章 天色(あまいろ)と亜麻色(あまいろ)


「一言一句漏らさず……?」

「毘沙門天は別名【多聞天(たもんてん)】と言うんだが、お釈迦様がおっしゃる全ての言葉を、一言も聞き漏らさなかった知恵の神様なんだよ。

それ故か、衆生(しゅじょう)の悩みにも常に耳を傾けご利益を下さる」

「衆生ってなんです?」

「ーー生きとし生けるもの全てさ」

「私、戦の神様だとばかり思っていて……
違う面もあったんですね。何も知らず恥ずかしいです」

「くくっ、それは最初に毘沙門天が戦の神だと姫に刷り込んだ謙信が悪い。
だからろき、君が祈り願った思いは必ず届くはずだよ。安心しなさい」

「ふふ、はいっ」

刷り込まれたという表現につい笑ってしまったけれど、
「必ず届く」と言い切った信玄様の言葉は、本当にそうなるんだろうなと思える程不思議な力があった。

「ああ、忘れるところだった」

信玄様は思い出したように呟くと、半歩先を行く歩みをピタリと止め、弾かれたようにこちらを振り向いた。

「昨日謙信から文が届いてね。姫を城下へ遣いにやってくれと言付かっていたんだ」

「謙信様が? 」

(滅多に頼み事をされない謙信様からのお遣いって何だろう)

疑問を浮かべる私をよそに、信玄様は更に続ける。

「大した遣いではないが城下と言っても何があるかわからないからね。俺も同行しよう」

(ん? )

普段は絶対に見せない愛想笑いを浮かべ、説明の不足を補うような言い回しに、私は何か違和感を覚えた。

様子のおかしい信玄様を不審に思いじっとりと見つめる。

「片付かない顔の天女は益々愛くるしいな~」

「……なんだかいつもと違う気がします。
信玄様が同行して下さるのはもの凄く有難いですけど……それより何か他にあるんじゃないですか?」

「………………」


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