第7章 天色(あまいろ)と亜麻色(あまいろ)
「信玄様~!」
私の声に立ち止まると信玄様は大きな背中越しにゆっくり振り返りおどけて見せた。
「これは驚いた。早朝天女が舞い降りるとは」
「ふふ、安心しました」
「ん?」
「信玄様が今日もお元気そうで何よりです」
相変わらずの口説き文句にホッとする。
(体調良いみたいで良かった)
改めて周りを見ると濃霧で10メートル先すら何も見えない。
「それにしても、お庭……真っ白ですね」
「ああ。霞の匂いは気持ちが良い、姫もそう思うだろう?」
「はいでも……」
「ん?」
「これだけ視界が狭いと、どちらに行けばいいのかわからなくなりそう」
「ああ、そうか」
信玄様は短く呟くと深い喜びを湛えた穏やかな眼差しで私に向かい手を差しのべた。
「おいで、ろき」
「え?」
「大切な姫を見失ったら困るからね。俺の手を離してはいけないよ?」
名前を呼ばれ一瞬戸惑ったけれど、優しい声に導かれるよう私は信玄様の手をとった。