第6章 白(しろ)と至極色(しごくいろ)
庭を眺めながら話す道三様の背中は、心を浸す寂しさを掻き消す程に温かく、涙で喉を詰まらせた私はくっと息を飲み込むけれど、せりあがるしゃっくりで上手く言葉が繋げない。
「っひく……ど、道三、様……
わ、私、幸村がい、いない事が寂しかっ……た……」
「ええ。存じておりまする。
溢るる涙はそのまま流せばよろしい……」
「は、っひく、はい」
しゃくりあげる私を見かねたのか……それまで目を閉じ黙ったまま横たわる信玄様が口を開く。
「……道三、姫を泣かすんじゃないよ」
「おや。空寝入りのタヌキが起きましたな?」
(信玄様がタ、タヌキ!?)
「ぷっ」
道三様の痛烈に的を得た言葉がツボに入り、
思わず吹き出した私を、信玄様は恨めしそうな目でじっとり見つめてくる。
「ひ~~め~~」
「ごめんな、さい…っぷ」
「やはり泣き顔よりも、ろき様は笑っている方がお似合いにござりますな」
「うん、そうだね。
姫は笑い顔が良く似合う。
しかしだ……
今日の道三はやっぱり悪いよ?
俺の出る幕なんてないじゃないか」
「何を申されます。坊主である身、悪巧みなどしようものなら罰が当たりまする。
それに……信玄様の甘味に於いては勝負がついておりましょう?」
「いや、だから…
道三のそういうとこ!
後生だっ!道三! もう一局! もう一局だけ俺に機会をくれ!」
「さすれば……わたくしからもお願いがござりますが、よろしいか?」
「な、なんだい?」
「わたくしが勝てば、後七日。城下へ足を運ぶ事、まかりなりませぬ」
「承知した。俺も男だ! 約束しようじゃないか」