第6章 白(しろ)と至極色(しごくいろ)
「わかったよ。今しばらく外出は控えるとしよう。
それにしても……」
「え?」
何やら片付かない顔をする信玄様を不思議に思い、聞き返す。
「俺としたことが……まんまと道三の策略にハマるとはね」
「え? 策略?」
「碁に関して、道三の右に出る奴なんていない。稀代の名人さ。
オセロなら何とか勝てるかと踏んだんだが、考えが甘かったよ」
「そ、そんなにお強いんですか?」
「信長や謙信も道三には勝った試しがないしな。そうだよな? 道三?」
同意を求められ、片袖を口に当てた道三様は喉の奥でくくっと笑う。
「わたくしの勝ち……にござりまするな?」
「悪い顔してるね~。
承知した。明日も明後日も、おとなしくしてるよ……」
拗ねた子供のような口調でそう言うと、庭へ面した縁側にごろり、手枕のまま横たわる。
「ぷっ、子供みたい」
「まっこと。手を焼きまする」
「『ふふ』」
信玄様の背中越しに、ふと夜空を見上げれば、オレンジ色をした下弦の月が、ゆらゆらと綿のような雲間に飲み込まれ、その光景につられるよう、私の気持ちも寂しさの中に引きずり込まれていく。
幸村に会いたい。
幸村の側に行きたい。
幸村に触れたい。
幸村……寂しいよ。
「いよいよ、立冬にございますな。
月日が経つのは誠、早うございまする」