第6章 白(しろ)と至極色(しごくいろ)
――オセロのルールを教えた日以来、信玄様の快進撃は止まらない。
どうして負けるのか全くわからず、後半なんて、石を打つ場所を誘導されて、手も足も出ない。
勝つ見込み100%の悪巧みに頭を悩ませていると、信玄様は懇願するように頭を畳に擦り付ける。
「後生だ! 姫! たまには城下を堪能したいんだよ!」
「で、でも……体調が……」
両手を合わせ、拝み倒す信玄様と困り果てた私に、見かねた道三様が手をさしのべた。
「ならば……わたくしがろき様の助太刀をば。
よろしゅうございますか? 信玄様?」
「お? 道三、俺は手を抜かないよ?」
「ふふ。さもありなん」
ジリジリ小さな音を立て、燭台に蝋をたらす炎が、真剣な表情をした二人の横顔に、くっきりと陰影を作る。
「道三……」
珍しくあぐらに頬杖をつき、盤上を見つめる信玄様は、諦めたように呟いた。
「どう考えても……俺の負けじゃないか」
「おや、降参ですかな?」
「あのね、道三。俺は甘味処に行きたいのよ」
「信玄様。城下へは、今しばらくお待ちあれ」
「やっぱりそうくるよな」
すっかりしょげて肩を落とす様子は見てて気の毒で、ネジを巻くように励ました。
「私、毎日美味しい甘味を作ります。
元気になれば、いつでもどこでもご一緒しますから。もう少し……頑張りましょう?」
「本当かい? 姫?」
「もちろんです」