第6章 白(しろ)と至極色(しごくいろ)
スッと開かれた襖の先には、深々と頭を下げ、座礼する道三様の姿。
「おや、ちょうど仕切り直しとお見受け致しまするが……
しばし休戦しては如何かな?」
ニコニコと盆を両手に近づくと、しなやかに膝を折り、一皿ずつ盛られたおむすびとお茶が、信玄様と私の前に配られた。
「ろき様、冷や飯で握りました故、むせ反りも少なかろうと思いましてな。信玄様にも滋養をつけて頂かねば」
優しく語りかける道三様の言葉に、ここ数日の自分を思い返す。
体調の悪さに加え、膳に盛られた出来立ての湯気に必ずと言っていい程気分がわるくなり、食べ物をほとんど口に出来なかった。
目の前の、海苔で巻かれたおむすびを手に取り、一口頬張る。
「おいし……」
「ようござりました。
食べれる時にお好きなだけ」
「はい、ありがとうございます」
「うまいね、道三。次からは甘味もつけてくれると有難い」
「さようにござりましたな。これはこれは……わたくしの不徳と致す処にござります」
ちらりと私を盗み見る道三様は、まるでいたずらっ子のようで、その表情に思わず頬が緩む。
「ふふっ」
「どうしたんだい? 姫?」
「いいえ、なんでもありません……ふふっ」
道三様の気遣いに、心がじんわり温まり、丸々一個ぺろり平らげる。
「姫」
「はい?」
「次、俺が勝てば……」
突然振られた言葉に視線を移せば、膝に両手を添え嬉々とした表情で、身を乗り出す信玄様は、ここぞと言わんばかりに私を覗き込んだ。
「勝てば? どうしたんです? 信玄様?」
「俺が勝てば、明日、城下へ甘味を食べに一緒に行く……てのは、どうだい?」
「えええ! まだ本調子ではないのに……それに、絶対信玄様が勝つに決まってます」