第5章 霞色(かすみいろ)
高く登りし太陽を背に、甲冑に身を固めた謙信率いる出征兵士の隊列が、山野の裾を揚々と勢い勇んで歩を進めていた。
巧みに馬を乗りこなし、先駆けを務める謙信は、
左後方にいるであろう佐助の名を叫ぶ。
「佐助ッ!」
「はっ」
すぐさま謙信の横に自身の馬を並べると、手綱を引き寄せ同じ歩調で走らせる。
「なにか?」
「先ほど信玄が申していた【せっくす】について教えろ」
「は?」
「信玄が詳細はお前に聞けと言うたのだ。
知らぬことは学び、己の糧にするのが常。
【ちちくりあう】事と【せっくす】は同じなのか?
それとも…何か、作法が違うのか?」
「いや、ちょっと今は……」
ためらうように顔を背けた佐助の態度に、ギロリ鋭い視線を浴びせると、愛刀を即座に鞘から引き抜き佐助の喉元へ、その切っ先をぴたりと当てた。
「答えよ、佐助」
謙信の右後方にて、馬を走らせながら二人の様子を伺っていた幸村は、めんどくさそうに小さく息を吐くと、それまでカツカツ、リズムよく走っていた愛馬の頭(かしら)を立て直し素早く駆け寄った。