第5章 霞色(かすみいろ)
「今度は何だよ……」
伴走する幸村は煩わしげに謙信をちらり見る。
「貴様は知っておるのか?
【せっくす】が何たるかを」
「当たり前だろ。
佐助に教えて貰ったからな」
「!!! 佐助~~~えぇッい!
何故俺には言わぬッ!」
「昼間からする会話ではない上に、謙信様はすでに理解されていると推測したからです」
「なに??」
「もう勘弁してやれよ謙信様。
佐助だって主人に直々言えねえこと、あんだろ。
代わりに俺が教えるよ。
【ちちくりあう】ってえのと、【せっくす】は同じだ。
やることは同じってことだ」
悪びれもせず、たわやかに馬を走らせる幸村の姿に、烈火の如く怒りを露わにした謙信は意味不明な言葉を口走る。
「よくも……よくも俺の目の前で
ろきを手籠めにかけ……
【せっくす】しおったなッ!
許せん!
絶対に許せん!
即刻馬を降り座せよ!
貴様にまとわりつく俗世の色を今すぐ叩き斬ってやるわ!」
その言葉と同時に佐助は心の中で叫ぶ。
ーー幸村!
そうだけど! あからさまに言うことじゃない!
ーー謙信様!
手籠めでもせっくすでもないんです!
あれは【ハグ】!
使い方間違えてる以前に、理解していない!
いや違う。
常軌を逸した妄想でおかしくなってる!
「……またかよ。
佐助、先いくぞ。
やってらんね~」
ーーまって幸村ッ!
それ僕のセリフ!
やってられないのはこっちだから!
謙信を追い越し、隊の先頭につく幸村の背に向かい、謙信は狂ったように声を張り上げる。
「幸村ぁぁぁああああ~~~ッ!
軍神たるこの俺を!
【ぱぱ】であるこの尊き俺を追い抜かすとは!
許さんぞ! 絶対に許さんっ!
先駆けはこの俺だ!
まてぃっっっっ! 幸村ぁぁぁっっっ!」
目の前で繰り広げられるこの状況を、どう収束させようか、
馬の速度を早める事なく追いつく事もせず悩みあぐねる佐助は、無意識にガックリうな垂れると小さく呟いた。
「……ホント、勘弁してくれ………」