第5章 霞色(かすみいろ)
颯爽と走り去る佐助君の後ろ姿を見送ると、
寂しさで強張った表情をくずし、私は口角をキュッと上げ満点の笑みで振り向けば、
真田栗毛にまたがる愛する人の姿が、眩しい程の逆光で
その全てが黒く塗りつぶされた大きな影に見えた。
私は、目先をかすませるものを取るかの様に、
何度も何度も強く瞬きを繰り返す。
「……幸村」
名を呼び、鞍に跨るすらりと伸びた長い脚に、自身を手を重ねる。
幸せを願い、一針ずつ祈りを込め刺繍したそれを
馬上から私を見下ろす愛しい影に、腕を高く掲げ差し出した。
「……これは…
……結び雁金(むすびかいがね)
ありがとな
ろき……」
「ううん」
「手、だせ」
幸村は自信に満ちた表情で柔らかく微笑み、懐から霞色(かすみいろ)の組み紐できつく結ばれた六文銭を取り出し素早くほどくと、半分の三文を私にしっかりと握らせた。
「これで、三途の川は渡れねえ。
俺が帰る場所はお前の隣だ」
「……ゆ、ゆきむら」
次から次へ涙が両目に盛り上がり、頬を伝わらないようキュッと口を結びつつ、馬上の幸村を見上げれば逞しい躯体を九の字に屈め、足に添えられた私の手をギュッと掴んだ。