第5章 霞色(かすみいろ)
信玄は「留守は自分に任せろ」と、経験と体力を秤(はかり)にかけるような眼差しを真っ直ぐ幸村に向け、自虐的な笑みを浮かべた。
その確固たる意志がいともたやすく心に通じた幸村は、周りが気付かぬ角度で頭(こうべ)を少し垂れると、小さな足を必死に地にくっつけ、体全体を支えるように立つろきの前へと体を向ける。
「……何て顔してんだ」
「うん」
「普段のことは、ちよに任せてある。
必要なことはちよに言え」
「うん。ありがと……」
じっと見つめる幸村の澄んで微塵の濁りも見えない瞳に、吸い込まれるように身動きできないまま、祈る思いを胸に言葉を綴る。
「……幸村」
「ん?」
「私、何があってもここで待ってるから」
「おう」
「………
よ、夜は朝に繋がってるし、
今日は明日に繋がってるし、
赴く地で幸村が見上げる空は、この春日山にも繋がってる。
だから……
いつも一緒……だよ?……」
「当たり前だ。
俺は、お前と共にいる。
心配すんな」
その瞬間、大きくゴツゴツした手のひらが、
私の後ろ髪に触れたと同時に、隙間のない程きつくきつく抱きしめられた。