【松】終身名誉班長とマフィア幹部と汚職警官から逃げたいんです
第1章 終身名誉班長一松
ノロノロと歩くと、作業机にあるモノに目がとまる。
机に載せた彼の肘の近くには、これ見よがしに板チョコレートが置かれていた。
瞬時にチョコの味や匂いが再生され、ごくっと喉が鳴る。
私が菓子に釘付けになっているのを見た一松さんは、紫煙を吐きながら笑った。
……私は恥ずかしくなって下を向く。
私はこの班長さんが少しも好きでは無いし、あちらもそれが分かっている。
だから彼は『ごほうび』を用意している。彼のふところの痛まないごく安い物を。
ええ、ええ。こんな物でほだされる、安い小娘ですみませんねえ。
給料が支給されない家畜の環境では、自分の欲しいものを買うなんて夢だ。
リスクと引き替えに煙草や酒、菓子類を裏取引出来るほど、利口でもないし。
「今日はどうしますか?」
チョコからどうにか意識をそらし、声を出す。きっといつも通りに無愛想だろう。
愛人なら愛人で、もう少し媚びを売った方がいいと思うし、そう言われたこともある。
けど私は愛想笑いが苦手だ。
一松さんは吸っていた煙草を灰皿に押しつけ、おっくうそうに足を広げた。
「一回、抜く」
「はい」
私は班長の足の間にひざまずき、チャックを開ける。
外に出した××は雄の匂いを放っていて、舌を這わせると、それだけで反応した。
私は数日洗ってないだろうそれに手を這わせ、ゆっくりと口に含む。
「帽子、取れよ」
一松さんが私の帽子を取った。私は奥まで含み、口を動かした。
「くせっ」
帽子の内側の匂いをかいで笑う。すみませんねえ、ここの長時間労働のおかげで、シャワーもろくに入れませんで。人をとやかく言うのなら、自分こそシャワーに入って下さい。この部屋、風呂があるでしょ?
「怒るなよ。後で一緒に風呂に入ろう」
帽子でポンポンと私の頭を叩きながら言う。
私は反応するのも面倒で、口を動かした。先や筋を舐め上げ、苦しいのを我慢して必死に根元まで吸う。鼻先に毛が触れ、雄の匂いが充満する。
チラッと見上げると、一松さんは煙草を吸いながら書類点検という、殺意しかわかないことをしていた。