【松】終身名誉班長とマフィア幹部と汚職警官から逃げたいんです
第4章 後日談&おまけ
「だから参考にもならないって言っただろ?」
一松さんが私の背中を、足でしっかり押さえながら言い放つ。
「仕方ない。子猫ちゃんは誰が優れているかの判別すらつかないようだからな」
カラ松さんが腕組みし、真顔でひどいことを言う。
「やっぱり、同じ土俵で勝負しねえとダメか」
と一松さんが言った。私は背中を踏まれながらジタバタ。
ん?『同じ土俵』?
「そうだな。じゃあ、カラ松。俺さ、あの話を受けるわ」
「いいのか?」
カラ松さんには話が分かっているようだった。
「俺、カリスマレジェンド目指してるから、公務員なんて安牌で終わるの、嫌なんだよねー」
おそ松さんが飄々(ひょうひょう)として笑う。
さっきから何の話?
「俺も受けるぜ。こんなクソ工場に骨を埋める気なんざ、さらさらねえからな」
と、私の背中を靴底でグリグリしながら一松さん。
「何のお話ですか?」
やっと皆で、私をお払い箱にしてくれるのかと、期待の目で会話に加わる。
するとおそ松さんが警帽を取ってポイッとゴミ箱に捨て、私を見て、
「俺、カラ松からスカウトを受けちゃってさー。
警官を止めてマフィアに入ることにしたの」
「俺もだ。名前だけの班長なんざ、もうやってられるか」
……は?
い、いや、軽すぎないっすか? マフィアですよ!?
血の掟と硝煙とおクスリと、えーと、あと拷問だったり豚の餌にされたり……。
とにかく漫画どころじゃない、それは恐ろしい世界だ。
それを『友達に勧誘されたんで転職しまーす☆』みたいなノリで。
「これからは正式にカラ松『様』か。よろしく頼むぜ、兄貴ぃ」
と、私の背中から足をどけ、ヒヒッと笑う一松さん。
そして真っ黒に汚れた作業帽と、『終身名誉班長』の腕章を、せいせいした、という表情でゴミ箱に捨てる。
カラ松さんも葉巻を出し笑う。だが、すぐ鋭い顔になり、
「子猫ちゃんはともかく、汚ぇ野良犬のしつけには容赦しねえ。
泣いて後悔しても、もうカタギの世界にゃ戻れないと思え」
「望むところだな」
「まあ見ててよ。ちゃんとやるからさー」
私はその話を聞きながら、ほふく前進でそーっと、そーっと扉の方へ……。
「ぐぇっ!!」
再び背中を踏まれ、つぶれたカエルのような声が出る。