【松】終身名誉班長とマフィア幹部と汚職警官から逃げたいんです
第4章 後日談&おまけ
あー。うん。そういう夜の事情を他人にバラされると恥ずかしいんですが。
「回数自慢とか、悲しい主張しか出来ないやつって可哀想だよなあ」
と私の頭を撫で、笑うおそ松さん。
普段は一松さんと仲が良いが、今回は声のトーンが挑発的だ。
「ナノを連れてくなら、俺しかいないでしょ。
なんたって公務員! 宿舎もあるし、社会保障もついてる!」
「はっ! ワイロを分捕るしか能がない警官なんざ、何かあったとき、真っ先に尻尾切りに合う立場だろうが!」
「それは終身名誉班長殿も同じじゃないの? 納期破りの一松くーん?」
「変なあだ名をつけてんじゃねえ! 破ってねえよ、腐れ警官!」
男どもが私をめぐって言い争う中、私は手首を必死に動かし、縄抜けを試みる。
……あー、出来ないっすね。ドラマの見過ぎでございました。
「俺はナノの上司だ」
「公務員一択だよなあ」
「マフィアの女だろ」
火花を散らす三人。
……いや、だからさあ。
なぜ誰一人として、当事者である私に意見を聞かないの?
そしておそ松さんが、やっと私に気づいたように、
「ああ、ナノもいたんだっけ。いちおう意見を聞いてみる?」
何その『いることにたった今、気づいた』みたいな言い方!
「参考にもならないが、別に俺は構わねえ」
いや、一番参考にしなきゃいけないでしょう、そこ!
「子猫ちゃんは、エサにつられやすいから心配だ」
どういう意味だ。何だかんだでマフィアのあんたが、一番ろくでもないし!
だがどうにか口が自由になり、縄もほどいてもらって、自由になれた。
「ナノは誰についていきたい? もちろん警察の俺だよね?」
「一番、面倒見てやってるのは俺だろ?」
「マフィアの俺に飼われたいだろう?」
何で全員、猫に接するみたいに『こっちこっち』という雰囲気なのか。
「…………」
私は後じさりし――会議室の扉めがけて全力ダッシュしたっ!!
うわっ!!
転ばされたかと思うと、背中に衝撃!
「だから参考にもならないって言っただろ?」
一松さんが私の背中を、足でしっかり押さえながら言い放つ。