【松】終身名誉班長とマフィア幹部と汚職警官から逃げたいんです
第3章 マフィア幹部カラ松
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大きな窓からの夜景が本当にきれい。
こんなとこで食事なんて、こんな身に堕とされてなくても一生なかっただろう。
それはいい。いいんだけど……。
「今回は子猫ちゃんを招いてのディナーだからな。肩の張らない庶民風のものを用意させた」
「ん……ん……」
水分に続き、一日半ぶりに入ってくる栄養に、身体は貪欲さを隠さない。
だけど……。
「ブルスケッタ・コン・ケッカと言うんだ。トーストみたいで食べやすいだろう」
どうもイタリア料理らしい。
カラ松さんは優雅にパンを小さくちぎり、それを私の口に含ませる。
私は指を舐めんばかりに飛びつき、必死にそしゃくする。美味しい……!
バゲットに上質のオリーブがすりこまれ、のせられたトマトのみじん切りがまた格別。
……ディナーなのに、なぜ椅子に座ってるのがカラ松さんだけなんだ。
カラ松さんは極上のワインを飲みながら一人食べ、すぐそばに『座らされてる』バスローブ姿の私に、たまに給餌してくる。
ちなみに自分はちゃんと、洗い立てのシャツ姿だが。
飢えに飢えたこちらは、ちゃんと椅子に座ってがっつきたいんだけど、どういう嫌がらせなのか、椅子も食器も用意されていないという、いじめ並みの対応。
むろん、いじめでも先方のミスでもなくカラ松さんの注文だろう。
カラ松さんはフー、フーと、スープに息を吹きかけ、手にのせると、こぼさないよう身をかがめ、私の前に突き出す。
もちろん飛びついた。猫みたいにピチャピチャと手を舐めた。
「リソット料理は数多いが、俺はこのバローロを使ったものが好きだ。
子猫ちゃんは初めてか? 美味いだろう?」
私は聞いておらず、カラ松さんの手をなめ回している。
いちいち少量だから、食べても食べても食べた気がしない。
『もっと』と催促してもまたもらえる保証がない。まさに『与えられてる』感。
無意識に『もっと無いの?』という目で見上げた。
カラ松さんは苦笑し、次の料理を手にのせる。
「サルティンボッカは食べられるか? このセージの若葉がまた最高のアクセントで――」
全然聞いてない。私は動物になりきって、手から食べ続けた。
もっと欲しい。もっと食べたい。