【松】終身名誉班長とマフィア幹部と汚職警官から逃げたいんです
第3章 マフィア幹部カラ松
一松さんは私が無事に戻ってきたとき、珍しく笑顔を見せた。
カラ松さんに感謝をし、しばらくは私をいたわりさえしてくれた。
でも呼び出しの回数が重なるうち、カラ松さんを激しく憎悪するようになっていった。そして私への当たりがひどくなった。男の人はよく分からん。
そして今に至る。
カラ松さんには逆らえない。
私に関して全ての権利を持ってるファミリーの幹部だ。
彼が少しでも気を変えれば、私はブラック工場からすぐさま、本来行くべきだった場所――夜のお店&キワモノAVコースまっしぐらなのだ。
そうなったら終わり。もう救いの余地は一片たりとも無い。
ケガとクスリと性病であっという間に身体がボロボロになって頭もイカレて、成人を迎えずに死んでただろうな……と一松さんは、薄布団で煙草を吸いながら言っていたものだ。
私が工場にとどまっていられるのは、一松さんとおそ松さんとカラ松さんが、示し合わせて私のことを隠しているからだ。
そういう意味では、私が嫌うあの三人は恩人なのだ。
……それはそれとして嫌いだけどね!
で、カラ松さんが別格級で苦手だ。
お腹すいた。
回想シーンをやってる場合じゃ無い。
何か炭水化物を恵んで下さい。マジでヤバい。
あー……限界かも。というかこの遮音ヘッドフォン、重いんですが。
コテンと身体が傾く。誰かが私の肩を抱いた。
いや違う! 甘えてもたれかかったんじゃないから!
ん? 口元に何か感触が……食い物?
いや違う。指か。でも、はむはむと甘噛み。
――はっ! いや、これは食い物じゃない。舐め回すな、自分!
いかんいかん。もう少しで本気噛みするとこだった。
マフィアの幹部様相手にそんなことしたら、歯を全部引っこ抜かれてしまう。
いや口に指を入れないで。そういうプレイに誘ったわけじゃないから!
舐めても味なんかするはずがないのに、つい丹念に舌を這わせる。
あ、カラ松さんが頭を撫でてくる。え? これがいいんですか?
良いんなら、ご褒美下さい。
と思っていると、頭から重いのが取れる。遮音ヘッドフォンを取ってもらえたっぽい。
カラ松さんが私の耳元で低くささやいた。
「そこまで我慢出来ないのか? 子猫ちゃん。もう少しでホテルだから、待ってな」
私が待ちきれないのは、食い物なんですが。