【松】終身名誉班長とマフィア幹部と汚職警官から逃げたいんです
第2章 汚職警官おそ松
「お昼まで持ちこたえますから、大丈夫ですよ」
それでは、と頭を下げて背を向ける。
「うん。ナノちゃん、また聞き取り調査させてね♪」
一服してから立ち去る気なんだろう。
懐から煙草を出しながらおそ松さんは笑う。
何だかんだで、中身の見えない人だ。
逃げたいけど、逃げられないんだろうなあ、この人からも。
私は振り返らず、歩いて行った。
…………
あ……。また部品を加工しそこなった。これで何個目だろう。
「六番! いい加減にしろっ!」
私の所属するラインのリーダーが怒鳴りつけた。
うう。大丈夫かと思ったけど、やっぱり空腹で目が回る。
一松さんは高みから見下ろし、どう思ってるだろう。
「あと一度失敗したら、作業から外れてもらうからな!」
「申し訳ありません……」
通告はレッドカードに近い。その後どうなるかは正直、考えたくない。
とはいえ昼休憩まであと三時間。ノーミスで出来るのか。
そしてベルトコンベアが非情に動き出し、作業が再開される。
私は無心で手を動かし、順調に……。
あ!!
目がかすんだ一瞬の間に、私が処理すべき部品の一つが流れていった。
もう手を伸ばしても届かない。
リーダーがチッと舌打ちするのが聞こえた。
そして私を作業から外すべく、手を上げ――。
その瞬間、止まった。
「え?」
全てのベルトコンベアが止まっていた。
一瞬の沈黙と、工場全体のざわめき。
一松さん……?
見上げると、一松班長が何か指示していた。
彼が全てのベルトコンベアを止めたらしい。
横にはおそ松さんもいて、多分私に手を振っている。
何だ何だ何だ?
私のピンチを察して、という人じゃないはずなんだけど。
何があったのかと、皆が班長を見上げる。
しかし一松さんは説明を一切せず、どこかに向けて敬礼している。
そして全員が理解し、誰もが直立不動で敬礼した。
うわあー。
何なんだ。厄日なのか。厄日なのか、今日は。
一松さんの前に、数人の部下を引き連れた青年が歩いてきた。
サングラスにネクタイをしめたスーツ――なんだけど、派手すぎる青シャツ。
首元と手首に輝くゴールドのアクセ。あとブーツ。
この工場の事実上の所有者たるマフィア。その幹部であるカラ松さんだった。