【松】終身名誉班長とマフィア幹部と汚職警官から逃げたいんです
第2章 汚職警官おそ松
「ちょっとくらい食べなくても何とかなりますよ」
多分ならない。でも倒れたら倒れただ。先のことより、遅刻の罰則の方が怖い。
おそ松さんはふーん、と私の後ろにぴったりついてくる。
「でさ。今回も君に、ここの話を詳しく聞きたいんだけど……」
「お断りします。前回も前々回も前々々回もその前もその前の前も!私でしたよね。
毎回お願いしていますが、今度という今度は、他の方をご指名下さい!」
作業を一時間免除されての、形だけの聞き取り調査。皆、喜んで応じるだろう。
「君がいいの! どうせラインのリーダーさんも、俺が来た時点で、君が遅れて来る想定で工程を組んでるって~」
こうなったら振り切るしか無い。
「とにかくお断りします。では先を急ぎますので」
けど早足になる前に横に並ばれ、肩に手を回された。
「工場長さんにも許可を取ってるよ。班長にも話が行くと思うし。じゃ、よろしく♪」
また一松さんの機嫌が悪くなるんだろうなあ。
近いうち、下手すると今回の終業後にまた呼び出しかなあ。
私のせいじゃないってのに、とことん私に当たるんだから。
ちなみに聞き取り調査のご指名は、おそ松さんの要求するワイロの一つでもある。
こんな僻地(よく知らないけど、街からかなり離れてるらしい)まで査察に来させて、女の一人も差し出せってことらしい。
感情が顔に出ていたらしい。おそ松さんは舌打ちして、
「あーあー、そうですか。まあどうしても嫌っていうなら、いいけどさ。
俺、正義の味方だから女の子に無理強いしたくないしー」
無理強いという時点で、何をしようとしてたか、隠そうともしない。
でも今回は引くのが早いな。
ようやく私に飽きてくれたんだろうかと、ホッとしてると。
「じゃ、ここのこと、上に『正直に』報告しないとなー」
その言葉にギクリとする。
正直に。すなわち、ここのあらゆる非人道行為や不正を上に報告すると。
「そ、そんなことしたって、そちらの方は、皆、グルなんじゃ……」
マフィアの金は、警察上層部や政治中枢にまで流れ込んでいると聞く。
でなければ、おそ松さん一人がいかに都合の良い報告をしようと、ここが放置されるはずがない。