【松】終身名誉班長とマフィア幹部と汚職警官から逃げたいんです
第2章 汚職警官おそ松
いくらブラックだろうがマフィアの所有物だろうが。それなりの規模を持つ工場である限り、お役所の調査・監督対象である。
おそ松警官も、本来ならこの工場の不正を正してくれる存在……のはずだが。
「ナノちゃん、ちゃんと食べてる? またお尻がちっちゃくなってない?」
ケツを撫でてくるな、セクハラ警官。
毎度、工場の悲惨な実態を見ているに関わらず、この軽さ。
私が思っている以上に、マフィアと警察の癒着(ゆちゃく)は深いらしい。
おそ松さんは時々やってきては工場に有益な情報を漏らし、警察や役所には適当な報告書を出す。
その見返りにワイロを受け取ってるわけだ。腐敗官憲め。
「また一松班長にいじめられたの? あいつ、ひどいよなあ。女の子の扱いが全然分かってないんだから。俺も工場の外で君とデートがしたいよ」
工場の外ねえ。
ここから逃げようなんて考える奴はいない。
どこの出入り口にも武装した見張りがいるし、外も監視カメラや有刺鉄線だらけ。
逃亡を試みた者は捕まってリンチを受けた後、臓器売買の闇ブローカーや、人体実験を行う研究所に引き渡されると、もっぱらの噂だ。
「ナノちゃん、待ってよー」
絡んでくるおそ松さんから逃げたくて、私は早足になる。
「すみません。これから仕事ですので」
「そんなにやつれてて、大丈夫? 足がふらついてるよ?」
大丈夫ではないが、仕方が無いだろう。
あの闇班長、いつもなら朝ご飯を出してくれるのに……。
チョコレートの恨みも思い出し、すさんだ心がさらに黒く染まる。
ジリリリリと、作業開始十分前のベルが鳴っている。
もう朝食の支給時間も間に合わないか。
ため息が出る。
私は色んな事情から、特別扱いされておかしくない立場だけど、特別扱いはない。
他の作業員と同じく番号で呼ばれ、食事も同じ。罰則も厳格に適用される。
これは一松さんの強い命令によるものらしい。
人は他人が自分より優遇されているのを見ると、嫉妬して、いじめやリンチに走る生き物だから、というのが名誉班長の理論だ。
それはいいんだけど、なら私にもちゃんと配給のご飯を食べさせてほしい。