【松】終身名誉班長とマフィア幹部と汚職警官から逃げたいんです
第1章 終身名誉班長一松
「……ま、そう言うとは思ってたけど」
頬杖ついて、ニヤリと笑う。
そして引き出しを開け、チョコレートをしまう。
「じゃ、これは無しな」
「え……何で!?」
思わず声が出る。すると一松さんはわざとらしく驚き。
「は? これは単にデスクに置いておいただけだけど?
誰がおまえにやるって言った? 何? 欲しいの?
四つん這いになって犬みたいにねだったら、やるけど?」
一瞬だけ、本当の本当に殺そうかと思った。
一松さんはそれを予想してかニヤニヤしている。
作業員を束ねるこの人に、栄養不良の底辺娘がかなうわけもないと分かっていて。
「……失礼します」
「またな」
私は乱暴に扉を閉める。
つまりはシャワーと洗濯、睡眠時間という、別に一松さんと寝なくても得られたようなことが、『残業』の報酬だった。
そもそも、私は小遣い程度で買える菓子のために、あんな……。
「あ……帽子、忘れた」
怒りを表明してから出てきたのに、また間抜けなことをしてしまった。
からかわれるのが悔しいけど、あれを忘れると罰則モノだ。
中では一松さんがデスクワーク中だろう。何か変な音も聞こえるけど、少なくとも追いかけてくるようなことはないみたいだ。
「すみません……」
私は気まずい思いで、ものすごくゆっくりとドアを開けた。
「……え?」
何やってんの、この人。
一松さんがガンガンガンと、壁に頭をぶつけていた。
私の気配に気づいたかバッと振り向き、大慌てで咳払い。
「その……頭痛がしただけだ。何だ?」
額から血が吹き出てないっすか?
「あ? ええ? いや、その、帽子を忘れて……ああ、これです。失礼しました」
「……ま、またな」
何を見たんだと思いながら、私はいつもの区画に急いだ。
ま、まあ。あの班長の奇行はよくあることだし。
もう少しで今日の作業が始まる。二十時間程度で終わるといいんだけど。
てか、お腹が空いたな。
何か食べ物がないだろうか。
そう思ってると。
「やあ。ナノちゃん♪」
「げっ!!」
ある意味、一松班長以上に苦手な人がいた。
ブラック工場には似合わない警察官の制服。
「お、おそ松さん……」
「班長さんと寝てたの? なあ、俺とも寝てよ!」
周囲をはばからぬ大声で言い放ち、クズ警官は私に手を振った。