第1章 おにぎり
放課後、蓮巳に出来上がった紅月のデザイン画を見てもらうために蓮巳を探していた。今日は珍しく生徒会室にはおらず、教室とか居そうなところを探してみたが見当たらなくて弓道場に望みをかけて行ってみた。
「失礼する」
「……鬼龍さん、いらっしゃいませ。生憎本日ここには私しかおりませんよ?」
弓道場に入ると、1人で矢を射る女子がいた。蓮巳と関わるようになってから知った普通科の深風は、特待生で学年主席の優等生、弓道部の副部長をしていると蓮巳が言っていた。蓮巳が副部長を任せるってことは相当できる奴なのだと思うが、いかんせん俺とはキャラが違いすぎて、住む世界が違いすぎる。だから、蓮巳を通してでしか互いに知らないだろうし、親しくはなかった。
深風は矢を射てから俺の方を見て、綺麗な礼儀正しい笑みを浮かべて応えた。ちなみに深風が射った矢は真ん中に命中していた。
「そうか。邪魔したな」
「鬼龍さん、少々お待ちいただけませんか?」
「なんだ?」
「鬼龍さんに是非お渡ししておきたいものがあるんです」
蓮巳がいないならと、出ようとしたら珍しく深風に呼び止められた。それに渡したいものとはいったいなんなのか想像できなかった。
深風が弓道場の隅に置いている荷物から取ってきたのは見覚えのあるランチバックだった。たしかあれは…
「大事な友人からよくおにぎりをいただくのですが、恐らく私が食べるより鬼龍さんに食べていただいた方が良いかと思いまして」
そう言って渡されたのは、見間違いなく俺があいつに…あやにいつだったか誕生日に渡した手製のランチバックだった。
つまりあれか、深風とあやは友達だったのか。だが……