第1章 FIRST AND START
正直に言うと、彼氏になればって打算がなかったとは言わない。でも、そうしてしまったら………あの料理を侮辱するようで言えなかった。
ある程度の時間になり、家まで送り届けた。女の一人暮らしだからか、セキュリティのしっかりしたマンションだった。それに、俺のアパートから近かった。
あのストーカーは帰る頃には、居なくなっていた。必然か偶然かは分からないが、彼氏がいないと思わない様な容姿だ。
あぁ、だからか……。誰も、フリーだとは思っていないのだろう。俺がアパートに着いた頃、あいつからLINEがきた。
内容は、今日の礼と…………俺は、冷蔵庫を開けた。
「サンドイッチ?」
いつの間に作ったのか、カラフルで旨そうなサンドイッチが入っていた。朝にでも食べて下さいと連絡があった。
一般的には見ない具材だ。明日の楽しみにして、そのまま冷蔵庫に入れておいた。
返信は礼と一言のみ。芹や宗からは、薄情だと言われるが…………嫌、もう少し何か入力した方がいいのか?
「あっ……何なんだよ……」
最後に、卵焼きが好きだと入力してしまい、間違えて送ってしまった。今頃、驚かれているか笑われているか……。
「ハァッ……何か、調子狂う」
直ぐに、返信がきた。
「1番練習した料理か……」
素直に嬉しいと返信にあった。片意地張らず、何処までもマイペースなヤツだ。でも、たった一時間と少し共に居ただけなのに、居心地は悪くなかった。
「あ……弁当箱返してない」
その内容を送れば、予定通りに明日会うことになった。次は、あいつの弁当を取り上げないようにしようと思う。
……善処する。
「仕方無いだろ……旨そう、嫌……旨いんだし。マジで、彼女にしたら……ハァッ…………胃袋捕まれてるな、俺」
軽く項垂れる。
理由はどうであれ、普通に人と人として出会ったんだ。拗らせたくないし……嫌な思いもさせたくない。
それは、本心だ。あんな呑気で真面目なヤツをどうにかするのは、人として終わっている気がする。
でも、彼氏が出来たら……。
「……ムカつく」
すっかり、あいつに填まっていることに今更ながら自覚する俺だった。
兎に角、彼氏を作らせない。そう誓う身勝手な俺に、笑ってしまった。