第2章 HONEY & LOVER
何処からともなく、誰かの怒鳴る様な声が聞こえだした。私は玲衣と顔を見合わせる。
「何だろう?人の声?」
「酔っ払いとか?」
ベランダから、そっと下を見た私たちはあるものを見て、目を見張った。
「あの車は、結崎くんの…。」
「えっ?じゃあ、まさかこの声…。」
私たちは、二人で騒がしい声がする場所へと向かった。近付いては、そっと覗き込む。
視界に入ってきたのは、見慣れた人たちの姿。その中に、朔良くんの姿もあった。
そして、この騒がしい声の元凶は、意外な事に…足立くんの小林くんに対するものだった。
激高する足立くんに反して、小林くんは何でもないような雰囲気。話しの内容からして、逆恨みをしていることは、ずっと前から知っていたとの事。
だったら、何で何も無いかの様に付き合って来たのか?
小林くんは、いつもの小林くんらしからぬ冷えた声でこう言った。
「その顔…その顔を見たかったからだよ。嫌いだと思っているのは、お前だけだと思うな。」
「えっ…どうして…。」
「どうして?散々、出来る俺の足を引っ張ってきたお前がそれを言う?今回だって、彼女が絶対に了承しないと思っていたから連れて来ただけ。お前の無様な姿を目の当たりに出来るからな。これはこれで、愉快だろ?」
誰もが唖然とするしか出来なかった。
「それに、最初から彼女の事、何とも思って無かった。でも、俺が気があると言えば、お前は動くと思ってた。想像通りで拍子抜けした。そういうお前だから、俺には何1つ勝てないんだよ。バーカ。」
この一言で、足立くんは小林くんに殴り掛かろうとした。それを止めたのは、朔良くんだった。
「何で止めるんだ!!」
「俺だって腹が立っているに決まってんだろっ!!」
「檜山…?」
朔良くんの手が離されると、足立くんは振りかざした腕を下ろした。
「こんなクズに、囚われ過ぎるな。」
「酷い言い方だな、この俺に。」
が、このギスギスした雰囲気にそぐわない笑い声が聞こえた。
「動画上げたら、面白い様に拡散してる。ウチの大学の奴らも見てくれてるみたいだぜ?」
「結崎、何、動画アップしてんだよ!!俺の名声が、どうしてくれるっ!!」
「え~、自業自得じゃない?今後の学校が、見ものだよなぁ~。」
結崎くんって、こういう人だっけ?