第1章 FIRST AND START
私は、朔良さんの質問に答えました。
「イギリスにいます。父の転勤が決まって、母は娘の私より父について行きました。たまに、あんな風に思える人がいることを羨ましく思います」
「あんた、彼氏は?」
私は、首を横に降った。
「勿体無いな……あんた、可愛いのに」
「えっ?あ、お世辞でも嬉しいです」
「お世辞なんか言わない。面倒だし……」
本当に面倒臭そうな声に、つい私は笑ってしまった。
「もう少しで出来ますので、待ってて下さい」
「分かった……」
隣の部屋に消えた朔良さん。少しして、タバコの香りがしてきた。
暫くして料理が出来上がると、朔良さんに声をかけてはテーブルに並べた。
「すっげえ、旨そう。食べていい?」
頷くと、いただきますと言っては、直ぐに口に入れていた。余程、お腹がすいていたみたい。
「……ハァッ……旨い」
「良かったです。そう言って貰えて」
朔良さんは、綺麗に完食しては洗い物も手伝ってくれました。意外……でした。あ、ごめんなさい。
「あんたの飯……また、食べたいんだけど。どうしたらいい?」
「えっ?どうって……」
朔良さんの瞳、真剣です。
「……仕方無いだろ…………旨い飯を作る、あんたが悪い」
またしても、照れ臭そうにソッポを向く朔良さんの態度に、つい笑ってしまう。
「あ、ごめんなさい……笑ってしまって。料理くらいなら、何時でも構いませんよ。朔良さんは恩人ですから」
「えっ……いいの?」
「はい」
伯母さんの店の手伝い以外の日なら大丈夫だと告げれば、朔良さんはスマホを寄越してきました。
「俺の番号。登録して」
名前を見て、ハタと気付く。
「さ、朔良さん……朔良さんって、檜山 朔良さんって言うのですか?私……てっきり、朔良さんの朔良は苗字だと思っていました」
「今、物凄く朔良って連呼したな……あ、朔良でいいから」
でも、男の人を名前呼びだなんて……元彼の時ですら、苗字呼びだったくらいだし。って、散々、名前呼びしておいて……で、でも……。
「朔良でいいし、敬語も無し」
「えっ……で、でも……」
「反論するなら、襲うけど?」
何ってことを言うのですか!?
「冗談。でも、さん付けと敬語は無しな」