第2章 HONEY & LOVER
最近、あの女と現場が重なる時が増えた。それに比例して、俺に声を掛けてくる回数も増えてきた。
芹にはからかわれるし、ウザいし……。冷たくあしらっても、鋼の心を持ってんのか気にしてない様だし。
この日も同じ様な顔ぶれだった。1つ違ったのが、あの女が人気イケメンアイドルの一人に言い寄っていたこと。
甘えた声で言い寄る姿を目の当たりにして、芹らは苦笑い。俺は……興味無し。敢えて言えば、興味が向こうに向いたのは良かったくらいにしか思わなかった。
なのに……何で、当たり前の様に俺たちの楽屋に来るんだ?作為に満ちた表情を浮かべては、俺に話し掛けてくる女。
なぁ……あれを見た後なら、俺が突き放しても文句なんて無いよな?いい加減、ウザいんだけど。
「今日もすっごく素敵でした~。檜山さんが1番格好良かったです!!」
俺はと言うと……無視。スマホの画面を開いては、あいつ(彼女)からのメールを確認。
たわいもない内容に安堵し、伯母さんの店の客に絡まれたとあればイライラし……歌以外では、俺の頭の中を占めているあいつのことばかり。
その中で、可愛かったからと1枚の画像が添付されていた。開けば、仔猫が腹を見せて眠っているものだった。
「あの……檜山さん。聞いてます?」
「あ?あんた、まだいたの。いい加減帰れば?つーか、気安く俺らの控え室に入ってくんな」
「もうっ、檜山さんったらそんな酷いことばっかり言って。あんまり冷たくされたら泣いちゃいますよ?って、何処に行くんですか?」
「芹、帰るぞ」
みんな後をついてきた。女の姿は無かったけれど。
「しかし、あの子……あんなに朔良にあしらわれてもめげないなぁ」
「でも、他の男にもいい顔してる。朔良のことだって、絶対に本気じゃない」
「そうねぇ……他にも、お目当てがいるでしょうね」
他にもいようがいまいがどうでもいい。
「もう、控え室には入れるなよ。喧しいしウザいし目障りだから」
「朔良、容赦ないなぁ。ま、分からなくはないけど。俺も遠慮したい」
「俺も無理」
「まぁまぁ、あれはあれで一生懸命なのよ。遣り方は間違っているかもしれないけどね」