第1章 FIRST AND START
助けた女は、小刻みに震えていた。無理もない。見知らぬ男に抱き付かれていたんだ。それに……こいつに執着している様だ。
まぁ、見た目も悪くないし……ベビーフェイスに反比例した女らしい体系。男が好みそうな容姿だ。
暫く考えたが、一人暮らしだと告げられどうしようかと思案する。そこで、女の肘に下げられた鞄を見る。
「買い物?」
「あ、食材です。夕飯を作ろうと思って」
夕飯の言葉に、つい……何気に、口から言葉が出ていた。
「俺も一人暮らしなんだが、家来るか?」
言った後で、意味に気付く。何言ってんだ、俺……。
「これじゃ、俺も只のナンパじゃねぇか……ハァッ……」
「……プッ……」
女は、小さく笑った。さっきまで、あんなに怯えていたと言うのに。
「さっき、伯母さんに聞きました。お弁当を買いに来てくれたこと。売り物じゃなかったって言ったら、物凄く残念そうな顔をされたって」
女の言葉に、気恥ずかしくなりソッポを向く。
「あの……ご迷惑で無ければ、お邪魔してもいいですか?」
「はっ?あんた、見知らぬ男の家に……って、自分で誘っといて何なんだって話だな。でも、いいのか?」
「信じます」
何なんだよ……簡単に人を信じ過ぎないか?呑気な女に、息を吐いた。
「分かった」
「あの……」
「朔良」
俺……何、名乗ってんだろ。
「名前だ。知らないのは不便だろ」
「朔良さんですね。私は、 です。あの……本当にごめんなさい」
「乗り掛かった舟だ。気にするな。それに、旨い飯食わせて貰ったし」
「ありがとうございます。夕飯、食べられました?」
女の提案は、恩返しに夕飯を作ってくれるとのことだった。甘んじて恩返しを受けることにした。腹減ってたし……。
アパートに到着し、女を招き入れた。恐る恐る上がり込んできた女は、直ぐに料理に取り掛かった。
まな板で野菜を切る手際の良さに、驚きを隠せなかった。日頃から、料理をしているのが一目瞭然だ。
「馴れているんだな」
「あ、はい。料理は三才から覚えました。母が父大好き人間で、料理の腕を磨いて射止めたそうなんです」
母親譲りの腕前か。だが、今は一人暮らしだと言っていた。
「両親は?」